首都圏周縁部、特に静岡県熱海市や伊東市のような地域における「要除去マンション」の将来については、建て替えや敷地売却が困難となり、居住する区分所有者がほとんどいなくなることで、深刻な問題が生じる可能性があります。このような状況に陥ったマンションは、修繕不能・管理不能となり、最終的には地域社会に多大な影響を与える「廃墟化」へと向かうリスクを抱えています。
熱海市や伊東市のような観光地では、バブル期に建設されたリゾートマンションが多く存在します。これらのマンションは、経済の衰退や人口減少、所有者の高齢化、そして空き家率の上昇といった要因により、管理不全に陥りやすい傾向があります 1。区分所有者の非居住化が進むことで、管理に対する当事者意識が低下し、管理組合の役員の担い手不足や総会への参加率低下につながり、適切な維持管理が困難になります 3。
管理不全に陥ったマンションでは、以下のような問題が顕在化します。
このような管理不全のマンションは、自治体によって「特定空き家」に指定される可能性があります 10。特定空き家に指定されると、自治体は所有者に対して状態改善のための「助言・指導」を行い、改善が見られない場合は「勧告・命令」を発します 10。それでも改善されない場合、最終的には自治体が「行政代執行」(強制解体)を行うことがあります 10。
行政代執行にかかる費用は、原則として建物の所有者に請求されますが、所有者が不明であったり、支払い能力がない場合には、その費用回収が困難となることが大きな課題です 6。熱海市では、行政代執行に1.18億円が費やされ、区分所有者に請求されたものの、一部の所有者からは回収が困難であった事例も報告されています 12。
建て替えや敷地売却ができないまま、居住者がほとんどいなくなり、修繕・管理が放棄されたマンションの将来は、以下のようなシナリオが考えられます。
新潟県湯沢町(越後湯沢)の事例では、バブル期に建設されたリゾートマンションが多数存在する中で、築40年を超えるマンションが解体され更地になったのは、今回が初めてというケースが報告されており、マンションの「終活」がいかに困難であるかを示しています 14。
老朽化し、管理不全に陥ったマンションの再生は、区分所有者間の合意形成の難しさ、高額な費用、所有者不明問題など、多くの課題を抱えています 6。
現在、国レベルでは、区分所有法の改正により、建て替え決議の要件緩和(5分の4から4分の3へ)や、所在不明区分所有者の扱いに関する規定の見直しが進められています 15。これにより、建て替えや大規模修繕のハードルが下がり、再生が促進されることが期待されています。
また、一部の地域では、空き家となったマンションの活用事例も模索されています。例えば、シェアハウスや時間貸しのイベントスペース、自治体の交流スペースとして利用する試みも存在します 16。伊東市では、リゾートマンションの資産価値低下を防ぐため、ホテル運営のノウハウを持つ企業がマンション管理事業に本格参入する動きも見られます 18。
しかし、これらの対策が、すでに深刻な管理不全に陥り、居住者がほとんどいなくなった「要除去マンション」の廃墟化を食い止めるには、さらなる抜本的な対策と、行政、専門家、そして地域社会が連携した多角的なアプローチが不可欠であると考えられます。